“素材がダサい”時にやってはいけない5つのNGテク 盛れば盛るほど、逆にダサくなる「地獄の編集」回避術

第1章:それ、本当に“素材”のせいですか?

「なんかこの動画、写真、ダサくない?」
──そんな言葉が、編集作業の現場で飛び交うことは珍しくありません。

例えば、企業の広報用動画、SNSに上げる短尺の映像、またはポートフォリオとして仕上げた写真集。
どこか野暮ったくて、洗練されていない。そういうとき、多くの編集者やクリエイターが反射的にやってしまうのが「エフェクトでごまかす」こと。

しかし、素材がダサい=編集でどうにかするしかないという発想は、危険です。

素材とはそもそも、“表現したいことの核”です。
それが弱ければ、いくら盛っても“弱い土台に装飾を貼り付けただけ”になり、結果的に「痛い編集」になってしまいます。

そこで今回は、「素材がダサい」と感じたときに、絶対にやってはいけないNGテクニックを5つ、具体例とともに紹介します。
あくまでこれは、“やってはいけないこと”です。
ただし、うまく使いこなせば逆に「狙ったダサさ」を武器にすることもできます。
その境界線を知ることが、プロとアマを分けるポイントになるのです。

第2章:NGテク①「とにかく“グリッチ”で盛ればそれっぽくなる」

グリッチ(Glitch)とは、デジタルノイズやバグを意図的に再現するエフェクトです。近年では音楽ビデオやストリート系の映像で多用され、かっこいい演出の代名詞のように扱われています。

しかし、“意味のないグリッチ”は、ただのノイズです。

よくある例:

  • 会話シーンに突然グリッチ
  • 商品紹介動画にエラー風フレーム
  • 何でもかんでもRGBずらし

グリッチとは本来、「異物感」や「システム的違和感」を生み出す演出。それが映像のストーリーや世界観と一致していれば効果的ですが、脈絡もなく使えば、観る人はただ「古臭くて見づらい」と感じてしまいます。

【初心者向け補足】
グリッチエフェクト: 映像や音声に、ノイズ・バグ・ズレなどの“異常”を人工的に加える演出。Adobe Premiere ProやAfter Effectsなどのソフトで簡単に追加できるが、乱用注意。

第3章:NGテク②「テロップを“とにかくポップに”すればマシになる」

「テロップを入れて、フォントを明るくして、背景に影を入れて…」
──これは動画初心者のあるある。

確かに、テロップは伝達性を補強する重要な要素ですが、「ダサさを覆い隠す装飾」になった瞬間、それは視覚的ノイズへと変貌します。

典型的なNG例:

  • ビジネス用途なのに「マンガっぽいフォント」
  • 複数のフォントを混在させる
  • 赤+黄色+縁取りの“昭和のバラエティ番組”風演出

その結果、「センスが古い」「安っぽい」「学芸会っぽい」と言われてしまうことに…。

むしろ、テロップこそ“余白のデザイン”と考えるべきです。フォント選びと配置バランスがすべてを左右します。

第4章:NGテク③「アニメーションを“速く”すればテンポが良くなる」

動画や画像に動きを加えるアニメーション。
これは編集者の腕の見せ所です。

ですが、よくある誤解が「とにかく速くすればノリが出る」というもの。
確かにテンポは重要です。しかし、速すぎる動きは“内容の理解”を妨げるという致命的な副作用があります。

例えば:

  • テキストが1秒以内に消える
  • スライドイン・ズーム・回転が同時に起こる
  • アニメーションの緩急が一貫していない

結果として、「視聴者が情報を追えない」「どこを見ればいいのかわからない」編集になります。

これは「酔いやすい映像」「脳が疲れる映像」の典型パターンです。

第5章:NGテク④「BGMで“感動風”にすれば雰囲気は出る」

動画編集における“最後の逃げ場”がBGMです。

「音楽さえ壮大なら、内容が薄くても感動的に見えるはず…」という発想。
確かに、音楽の力は絶大です。映画でもゲームでも、音楽が持つ感情誘導効果は証明されています。

ただし──“映像の中身”と噛み合っていなければ、違和感しか残りません。

たとえば:

  • 商品紹介に壮大なオーケストラ
  • 失敗談にポジティブなロック調
  • 日常Vlogにアンビエント過ぎるBGM

感情の方向性が音とズレると、「大げさ」「空回りしている」「わざとらしい」と感じられ、逆効果になるのです。

第6章:NGテク⑤「AIで“アート風”に変換すれば素材は生まれ変わる」

生成AIが発達した今、画像をワンクリックでアート風に変換したり、動画にアニメ調フィルターをかけたりすることは簡単になりました。

しかし、ここにも大きな落とし穴があります。

AIは確かに“見た目の変換”には長けていますが、表現の意図や文脈までは理解できません。
結果として、以下のような問題が発生します。

  • 内容とスタイルの乖離(商品紹介なのに水彩画風)
  • 同一シリーズ内でAI変換のスタイルが統一されていない
  • 「AIっぽさ」が逆に“安っぽさ”として伝わる

つまり、AIの出力は“魔法”ではなく、あくまで“補助”なのです。
演出の一貫性を持たせ、クリエイティブ全体のバランスを取るのは、やはり人間の仕事です。

第7章:素材がダサいとき、プロはどう“引く”かを考える

結論として、素材がダサく感じるときの最適な行動は「盛る」のではなく、「引く」こと。

  • 余計なエフェクトを引く
  • 色彩をモノトーンに寄せる
  • 字幕を最小限にする
  • 動きをあえて減らす
  • 音楽のボリュームを抑える

引き算は勇気が要ります。ですが、“素材の弱さ”を際立たせず、逆に“味”として魅せる余白をつくるのが、プロの編集者の知恵なのです。

第8章:まとめ──“ダサさ”は隠すな、デザインせよ

どんなに洗練された作品でも、素材がパーフェクトなことは稀です。
ダサさ、粗さ、未完成さ──それらを「どう扱うか」が、編集者やクリエイターの力量です。

今回紹介した5つのNGテクは、すべて「よくあるミス」ですが、逆に言えば“使い方を誤らなければ武器にもなる”演出でもあります。

  • グリッチは“違和感”を強調するために
  • テロップは“伝達”のために
  • アニメーションは“リズム”のために
  • BGMは“感情”のために
  • AI変換は“再解釈”のために

これらを単に“ごまかしの手段”として使うか、“戦略的に設計された技法”として使うか。それが、仕上がりの美しさを左右するのです。

「ダサい素材こそ、編集者の腕の見せ所」
そう胸を張って言えるようになるために──今こそ、引き算のセンスを磨きましょう。