TikTokで“次が気になる映像”を編集で作る技術 スクロールを止めさせる、1秒先を予感させる“編集の科学”
はじめに:「なぜ最後まで見てしまうのか?」
気づけば1時間、いや2時間…。
TikTokを見ていると、次々と動画が流れていくなかで「なぜか最後まで見てしまった」映像がある。しかも、特別すごい映像でもないのに――なぜだろう?
実はそこには、編集に仕掛けられた“トリガー”が存在する。
このブログでは、「次が気になる」状態を意図的に生み出す映像編集技術について、第三者的視点で深掘りしていく。
単なるエンタメでは終わらせない、プロの編集者やAI生成ツールが本能的に使いこなしている「間」と「構成」の秘密に迫ろう。
なぜ“続きを見たくなる”のか? ー 脳が反応する「ツァイガルニク効果」
映像の文脈において「次が気になる」とは、未完の情報への人間の不快感を利用した編集術である。
この現象を心理学では「ツァイガルニク効果」と呼ぶ。
これは「人は完了されたタスクよりも、途中で中断されたタスクの方が記憶に残る」という法則だ。
TikTokではこれが顕著に利用される。
「どうなるの?」「それで?」「続きは?」と脳が問いかけた瞬間に、指が止まる。
この“止まる”編集こそが、次に繋がる導線を作っているのだ。
技術①:情報の“間引き”と“焦らし”編集
TikTokのような短尺映像で「気になる展開」に持ち込むには、説明を減らす勇気が必要だ。
● 初心者がやりがちな「詰め込みすぎ」の罠
「全部説明しないと伝わらない」
「冒頭で背景も入れなきゃ」
――その思考が、“ネタバレ編集”を生む。
実は、説明は「しない方が」惹きつけられる。
例:
✕「今日はこのカメラを開封してレビューします」
〇「この値段で“中身これ”ってマジ?」
わずかこの違いで、期待値が跳ね上がる。
“間引いた情報”こそ、見ている人の脳を「続きを補完しよう」と動かす。これが「興味の空白」を生む編集術だ。
技術②:視線誘導と“終わらない感”をつくるカット構成
視聴者が「次の展開を予感する」のは、視覚のリズムによるところも大きい。
編集の世界ではこれを「アイ・トレース(Eye Trace)」と呼ぶ。
視線の動きに沿った編集は、映像に無意識の“流れ”を感じさせる。
● 終わらせない工夫:「起承転、で終わる」
一般的な構成では「起承転結」で終わるが、TikTokではあえて“結”を見せないことで、次を見たくなる設計にする。
たとえば――
起:怪しい荷物が届く
承:開けようとする
転:中身が…とんでもない様子
結:(見せずに終わる)「続きは…」
この構成にすると、視聴者は結末を自分で補完できず、次の動画へ「誘導される」。
これはもはや、エンタメではなく設計である。
技術③:「シーンジャンプ編集」で視聴者を置き去りにしろ
YouTube的な時系列編集は、TikTokでは遅すぎる。
● “あえて飛ばす”ことで脳を混乱させる
時系列通りにすべてを説明すると、次の展開が予測できてしまう。
一方で、一瞬で“場所が変わる”編集は、脳を混乱させる。
たとえば、
冒頭:「真夜中の部屋」
次のカット:「廃墟にいる同じ人物」
このジャンプには何の説明もない。だが、視聴者の脳はその“ギャップ”を埋めようとして、映像から情報を探し続ける。
つまり、視聴が継続する。
編集によって「流れを止めない」のではなく、“理解を止める”ことで視聴を続けさせるのだ。
技術④:「音」の力で“次の期待値”を上げる
映像編集者の盲点、それは音の伏線だ。
● 「終わる音」と「続く音」は違う
“ポン”という効果音 → 終了を予感
“ドゥーン…”のような持続音 → まだ何かありそう
このわずかな違いで、視聴者の脳内のリズムと期待感が変わる。
また、「次の映像に入る前に音が先に流れる」などの手法を使うと、シーンが始まる前に“次の展開を予感させる”ことが可能になる。
編集で「見せる」だけでなく、「聞かせる」で次を作れ。
技術⑤:コメント欄を「物語の一部」にする仕掛け
TikTokではコメント欄すら“編集の一部”である。
「この後、どうなるか予想してみて!」
「次の展開、バレてた人?」
「最後の一瞬、気づいた?」
このようなコメント誘導を映像内に仕掛けることで、コメント欄が「続きの考察スペース」になる。
つまり、“映像が終わっても完結しない”世界を作れる。
編集の出口をコメント欄にすることで、一つの動画が「次の行動」を誘発するメディアへと進化する。
補足:生成AIで“次が気になる構成”を量産する方法
近年では、生成AI(Generative AI)を活用して、“未完の展開”を自動生成させることも可能だ。
たとえば:
ChatGPTに「ツァイガルニク効果を活かしたショート動画の構成案を10本出して」と指示
そのまま動画編集ソフトにAIアシストで組み込む
このように、発想・構成・編集の流れ全体をAIでプロトタイプ化することで、量産的に“気になる動画”を設計できる。
AIは「物語を完結させる」よりも「展開を続ける構成」の方が得意なため、特にTikTokにおいては編集パートナーとして優秀だ。
終わりに:「“完結しない映像”が、人を動かす時代へ」
TikTokは、ただの短尺動画プラットフォームではない。
それは「人間の認知のスキマ」に入り込み、「続きを欲望させる装置」として進化している。
そしてその中核にあるのが、編集という“見えない設計”である。
- 意図的なカットの“飛ばし”
- あえて語らない構成
- 終わらせない音
- コメント欄の物語化
- AIによる生成的構成
こうした編集術を使うことで、「見てしまった」から「続きが見たい」へと、視聴者の心理は変化していく。
最後に1つ、重要なことを言おう。
“最後まで見てもらう映像”ではなく、“最後を見せない映像”が、人を動かす。
それが、今TikTok編集に求められているスキルなのだ。