研修動画が退屈なのは“章立て”が下手だから プロが見抜く、構成だけで“面白くなる”編集の技法とは?

はじめに:なぜ研修動画は「つまらない」と感じられるのか?

企業や学校、団体などで使われる「研修動画」。
知識を効率よく伝える手段として確立されたこのフォーマットですが、現場ではこんな声があふれています。

「中身は重要なんだけど、眠くなる」

「再生速度を1.5倍にしないと耐えられない」

「途中で何度も離脱してしまう」

これは、出演者がつまらないのでも、映像が古いからでもありません。
最大の原因は“章立て=構成”にあります。

章立てが下手だと、どんなに中身が良くても“視聴体験としてつまらない”のです。

このブログでは、動画編集者・制作者・ディレクター・教育担当者・コンテンツ制作者など、クリエイティブな現場に関わるすべての人に向けて、「研修動画を面白くする最強の技法」としての“章立て”の本質に迫ります。

なぜ「構成(章立て)」がそこまで大事なのか?

情報は“流れ”で理解される
人間は情報を「点」ではなく「流れ」で理解します。
一つひとつの内容がどれだけ重要でも、その並びや展開にリズムがないと、脳は処理を放棄します。

たとえば以下の2つの順番を比べてみましょう:

パターンA
業務フローの説明
社内ルールの細かい規定
トラブル事例紹介
最後に自己紹介

パターンB
導入:あなたの仕事はどんな世界に関わっているか?
現場のリアルなトラブル事例
トラブルを防ぐにはどうすればよい?
その具体的な社内ルールとは?
実際の業務フローとポイント
あなたのサポーターになるスタッフ紹介

この違いだけで、「最後まで見られる動画」になるかどうかが決まってしまうのです。

研修動画にありがちな“構成ミス”3選

1. 冒頭が事務的すぎて心をつかめない

「この研修では〇〇について学びます」
「まずは概要をご説明します」
――これが最初の3分間なら、9割の視聴者は“ながら見”に移行します。
章立ての初手で失敗している典型例です。

2. メッセージの“起承転結”がない

研修内容がただ「並列に」説明されるだけ。
情報としては正確でも、ドラマがないため感情が動きません。

人は“感情が動いたこと”しか記憶できません。

3. 章の切り替えに“フック”がない

各セクションの終わりと始まりに“つなぎ”がなく、急に話が飛んだように感じられる。
これでは、一つひとつの章がバラバラに感じられてしまい、視聴のリズムが乱れます。

「面白い研修動画」は構成が映画のように設計されている

意識すべきは、「映画の脚本」に近い感覚です。

  • 視聴者の関心をつかむ“導入”
  • 課題提起とその解決の“ストーリー”
  • クライマックスに向けての“感情設計”
  • 最後に心に残す“余韻”

構成(章立て)こそが動画の“骨格”であり、“編集”では取り返しにくい部分です。

章立てを設計する3つの質問

Q1:「この動画を見終えたあと、何を思ってほしいか?」

答えが「知識を得たと思ってほしい」では弱いです。
理想はこうです:

  • 「これなら私にもできそうだ」
  • 「明日からちょっとやってみよう」
  • 「なんか、いい会社だな」

これは、学習成果ではなく“感情設計”の話です。

Q2:「どこで“視聴者の顔”が変わってほしいか?」

たとえば、最初は面倒そうな顔をしていた人が、
途中で「あ、なるほど」と納得し、
最後には少し笑っている――

そんな感情の変化を起こす“章のポイント”を意識します。

Q3:「この章は、何を“問い直す”章か?」

章立てとは、情報を並べることではなく、問い直しの順番です。

たとえば:

  • 「なぜミスは起きるのか?」
  • 「それはルールの問題か、環境の問題か?」
  • 「その解決策は、誰が、どのように?」

この“問いの流れ”を作ることで、動画全体がストーリーになります。

初心者でもできる“章立ての型”3選

型1:「Before → After → How」

  • Before:よくある失敗や問題を提示
  • After:理想の状態を提示
  • How:そのギャップを埋める方法を提示

これは“変化”に焦点を当てた構成です。視聴者に「自分ごと」として体験させやすい。

型2:「事例 → 原因 → 解決策 → 注意点」

  • 現場のリアルな事例を見せる
  • 何が原因だったかを探る
  • 具体的な対応策を紹介
  • よくある落とし穴も合わせて伝える

これはトラブル系研修に効果的な構成です。

型3:「ストーリー → 分析 → 応用」

  • ある人の経験談や物語を紹介
  • そこから何が学べるかを抽象化
  • 他の場面でも応用できる形で伝える

感情の引き込み×知識の汎用性を両立した構成です。

生成AIが“章立て”を劇的に変える時代

最近では、生成AI(Generative AI)が章立ての支援ツールとして活躍しています。

たとえばChatGPTやClaudeなどのAIに、

「このテキストに対して、感情が変化するような章立て案を出して」

と指示すれば、数パターンの提案がすぐに出てきます。

さらに、生成AIは「客観的視点」でもあるため、自分が作った構成の違和感をチェックするにも有効です。

章立て=構成は「孤独な作業」になりやすいですが、AIはそれを共同編集者として補完してくれる存在になりつつあります。

編集者・制作者が“章立て”を意識することで得られるメリット

  • 視聴者の満足度が上がる
  • リピートされやすくなる
  • 「伝わった感」が強まり、評価されやすくなる
  • 映像クオリティより内容で勝負できるようになる

つまり、予算をかけなくても“構成力”で勝てるということです。
これほどコスパの良いスキルはありません。

おわりに:編集は「削る」ことより「組み立て」ること

よく「編集とは不要な部分を削ること」と言われます。
しかし、研修動画においてはそれよりも大切なのが、“情報をどう組み立てるか”です。

構成が良ければ、飾らない言葉も胸に響きます。
構成が良ければ、登場人物の魅力も引き出されます。

研修動画が退屈なのは、出演者のせいでも、情報のせいでもありません。
章立てが“物語”になっていないから。

クリエイティブに関わるすべての人へ。
動画を「構成」から見直すことで、あなたのコンテンツはもっと“見られる”ものになります。